日本化学会

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本会元会員の不正行為疑惑について

平成18年12月

会 員 各 位

社団法人 日 本 化 学 会 会 長  藤 嶋 昭

 日本化学会は、かねてからその会員が社会における自らの使命と責任を自覚し、良識に基づいて行動することの重要性を認識し、そのための行動規範を策定し、また会員が出会う機会が多いと思われるいくつかの事項について会員が取るべき行動の指針を示して、この問題の大切さを常に訴えてきました。  このような背景のもと、本会は、報道機関や東京大学ならびに産業技術総合研究所(産総研)ホームページなどを通じて伝えられる「研究ミスコンダクトの疑いがある」とされる問題に、会員(当時)である多比良 和誠氏(東京大学工学系研究科)が関わっていることを深く憂慮し、倫理委員会(委員長:井上祥平)を中心にこの問題について以下のように調査・検討を行ってきました。  すなわち本会では、本年3月末に東京大学および産総研から発表された詳細な調査報告の精査を行い、また独自に複数の専門家からの意見の聴取を実施しました。それらの結果、問題となった多比良氏のRNAに関する研究の複数の論文について、同氏はその内容を裏付ける実験データを保管することなく、内容の正当性、再現性に対する第三者の疑問に応えられない状態を長く続けることになったことが確認されました。また東京大学の求めに応じて行った再実験でも、同大学の納得する形で結果の再現に成功していないと判断されます。産総研の専門委員会からは研究ミスコンダクトの疑いが否定できないとの判断が出され、その勧告に応じて複数の論文の取り下げが行われたと伝えられます。  これら一連の経緯において、多比良氏は研究グループのリーダーとしての十分な責任を果たしていないと判断せざるを得ません。そこで本会はその「会員の不正行為の調査・審理に関する細則」に基づいて何らかの措置を取る必要があると判断しました。しかし、この「細則」は平成18年1月に制定されたものであるので、それ以前に発生した問題にこれを適用することは法的には問題がないとはいえません。このような状況に基づいて本会では、この件に関する本会の認識と、強い遺憾の念を伝える書面を多比良氏あてに送付しました。なおこの間、同氏は3月20日付けで本会宛に退会届を提出し、それが自動的に受理された形になっていましたが、書面送付の措置はこの問題が、同氏が本会会員であった期間に発生したことを考慮したものです。  会員各位には、研究結果の信頼性が科学の成立の基本であることの認識を新たにしていただきたいと思います。