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非線形光学顕微鏡による結晶多形の迅速識別

 薬剤は結晶多形により人体内での安定性や溶解度などが異なるため,その効能に差が出る。したがって,結晶形のスクリーニングは医薬品開発において極めて重要である。結晶多形の識別には,粉末X線回折やラマン散乱分光,赤外分光や光学顕微鏡観察など,様々な測定が従来必要であり,医薬品研究開発の律速段階となる上,数gの試料を要する。
 最近,第二高調波発生(SHG: Second Harmonic Generation)を利用した顕微イメージング法により,結晶多形の識別を少量の試料で迅速に行えることが報告された。G. J. Simpsonらは,入射光の偏光状態を高速で変調し,図のような偏光依存SHGイメージをビデオレートで取得可能な顕微鏡を構築した1)。得られるイメージは結晶の配向角に依存するので,さらに画像解析と併せることで,結晶座標での非線形電気感受率テンソル算出法を提案した。これは結晶形に依存するパラメータで,線形判別分析により結晶多形の識別が可能であった。一般的な賦形剤のD-マンニトールの結晶に本法を適用したところ,約1 μgの試料を7秒以下で測定可能であり,99.99%以上の信頼度で単斜晶と斜方晶を識別できた2)。卓上粉末X線回折装置では1分以上の測定時間が必要であり,本法による大幅な時間短縮が期待できる。また,薬剤にはキラル化合物が用いられることが多く,比較的強いSHGシグナルが得られると予想される。本法は医薬品開発のボトルネックを大きく広げられる可能性がある。

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1) E. L. DeWalt, et al., Anal. Chem. 2014, 86, 8448.
2) P. D. Schmitt et al., Anal. Chem. 2016, 88, 5760.
諏訪雅頼 大阪大学大学院理学研究科