日本化学会

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超低温で見えてきた新しいクロマトグラフィー

Challenge for HPLC at -196℃

 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は,様々な分野で汎用的に利用される分離分析手法の1つである。HPLCは室温付近での使用が一般的であり,極端な温度環境下で分離を行うことはない。しかし,高温あるいは低温条件下における保持挙動に関する研究は,新規な分離機構を創出するための有用な知見を得ることができるものと思われる。
 最近,本野らは,液体窒素などの超低温流体を移動相として用いた超低温HPLCを報告している1, 2)。筆者らは,まず固定相としてシリカゲルを,移動相として液体窒素を用いて,これまでで最も低温である-196℃という環境下でメタンなどの炭化水素化合物の分離を達成している。そして,これらの溶質の保持には,移動相として用いる液体窒素の固定相への吸着が影響していると言及している。さらに液体窒素よりも固定相への親和性が高いメタンを移動相の液体窒素に添加することにより,汎用HPLC と同様に移動相の組成変化による溶出力の調節が可能であることも明らかにしている。また構造異性体の選択性やアルケンの保持などについて,超低温HPLCならではの興味深い分離挙動についても報告している。
 本野らは,超低温HPLCにおける移動相組成と保持挙動との関係についても詳細な解析2)を行い,"吸着交換"と"擬分配"の2つの相互作用に基づく保持挙動を数式化している。さらに,シリカゲル以外の固定相として,ODSを用いた場合についても超低温条件下での保持挙動について解析を行っている。
 これらの研究成果は,クロマトグラフィーの理論に関する新たな知見を与えることは言うまでもなく,不安定化合物の分離などへの適用も期待されることから,今後の更なる研究報告が待たれる。

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1) T. Motono et al., Anal. Chem. 2016, 88,6852.
2) T. Motono et al., J. Chromatogr. A 2017, 1503, 32.

村上博哉 愛知工業大学工学部