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Fm, Md, No およびLr の第一イオン化エネルギー : 5f 電子充填の実証とアクチノイド系列の確立

First Ionization Potentials of Fm, Md, No and Lr: Verification of Filling-up of 5f Electrons and Confirmation of the Actinide Series

 原子番号Z が100 を超える元素は,天然には存在せず,核融合反応を用いて合成される。しかし,生成する同位体はすべて短寿命で生成率も小さいため,原子1 個ずつの取り扱いを余儀なくされる。このため,その物理・化学的性質はよく知られていない。Glenn T. Seaborg によるアクチノイドの概念から70 余年が過ぎた現在でも,Lr(Z=103)がアクチノイド最後の元素としてふさわしい性質をもつかどうかすら確かめられていなかった。  筆者らは,価電子の束縛エネルギーを直接反映する第一イオン化エネルギー(IP 1)を実験的に求めることで,Z ≥ 100の重アクチノイド元素の電子配置に関する情報を得ることを試みた。  実験には,表面電離イオン化と質量分離を組み合わせたオンライン同位体分離器(ISOL)を用いた。重イオン核反応によって合成した249Fm(半減期2.6 分),251Md(4.27 分),257No(24.5 秒)および256Lr(27 秒)をイオン化・分離して,各同位体のイオン化効率を測定し,対象元素のIP1 を決定した 1, 2)。この結果,原子番号の増加とともに,No までIP1 は単調に増加し,Lr で急激に小さくなる傾向を観測した(図)。これは,5f 軌道に順に電子が充填され,No で準閉殻構造[Rn]7s25f14 をとり,Lr でゆるく束縛された1個の電子を最外殻軌道にもつことに対応する。この構造はランタノイド系列と類似することから,Lr でアクチノイド系列が終わることを初めて実験的に示すことができた。

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1) T. K. Sato et al., Nature 2015, 520, 209.
2) T. K. Sato et al., J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 14609.

佐藤哲也 日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター