日本化学会

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光触媒の抗菌効果の新しい展開

Development of Antibacterial Effect by Photocatalysts

光触媒による抗菌は20年前から研究が行われているが,そのほとんどは光触媒膜表面上にいる菌に対して,光触媒粒子表面で生成する活性酸素種が菌を酸化分解し,殺菌できたことを示すものであった1)。この手法では,生成した活性酸素種(例えば,水酸基ラジカル)の酸化力で分解できないような芽胞を持つ菌(例えば,ボツリヌス菌や炭疽菌)には効果がなく,また光触媒の分解力以上の菌で被覆された場合は抗菌能が低下するという課題があった。
一方,国際宇宙ステーション(ISS)の中ではおよそ20種の細菌類,10種の真菌類が存在し,またその多くがバイオフィルム(菌膜)を形成していることが報告されている2)。バイオフィルムは形成してしまうと除去することが大変難しいため,形成する前に殺菌することが大事である。
筆者らの研究グループでは,光触媒反応を使うことでエタノールから強い殺菌剤を合成できることを明らかにし3),さらにISS内で使用用途がなく廃棄予定のメタン(CH4)から強い酸化力を持つ過ギ酸
(HC(O)OOH)を作り,カビの殺菌に成功した(図)。この技術は,必要なときに必要な量の殺菌剤を作ることができるため,芽胞に対する殺菌やISS等での実用化が期待される。

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1) K. Sunada et al., J. Photochem. Photobiol. A Chem. 2003, 156, 2270.
2) N. K. Singh et al., BMC Microbiology 2018, 18, 175.
3) Y. Yamaguchi et al., Scientific Reports 2016, 6, 33715.

勝又健一 東京理科大学基礎工学部材料工学科