化学系研究室の環境・安全アンケート調査

 環境 ・安全委員会では平成15年1月に 『化学系研究室の現状把握へのお願い−国立大学法人化に向けて−』
と題する緊急アンケート調査を実施した。アンケートを化学系の学科・専攻を有する国立大学の85人の学科長・専攻
長に依頼し、309通の回答を得ました(有効回答率: 60.5 %)。 
 本委員会では 、『研究室環境・安全WG』を設置し、アンケートの解析・検討をおこなったので下記に報告いたします。

緊急アンケート:大学の環境・安全管理の現状
質問 項目概要 (質問表全文 図・表(PDF)
研究室の専門分野 図−1
研究室の構成メンバー 表−1
表-1に示すように常態として研究室(実験室)を利用する人数では、平均して職員の約5倍の学生の存在があり、研究室の重要な構成員である。従って、学生が良好な研究環境で教育・研究を受けられるために施設等のハード面や安全衛生教育等のソフト面の両面での改善を考慮する必要がある。また、学生が研究室の安全衛生管理にも参画するような仕組みも考慮されるべきである。
2-1 研究室の面積
2-2 実験室・居室の分離 図−2
有害性のある化学物質の取扱場所では避難経路や通路を含めたスペースの確保も重要なことである。
図-2は主となる実験室が居室部分を兼ねている場合、「分離の可能性」について聞いた質問で、「不可能」との回答が50%あり、一方、「分離済みにつき不要」と「不要」との回答も30%あった。研究室の安全衛生の観点からは、本質的に実験室部分と居室部分が分離されるべきであり、改造や新設の研究室のデザインとして分離が考慮されるべきである。
大学よりの情報入手 図−3
図-3で示すように化学会等の大学以外からの情報を含めて52%は情報を入手しているが、一方で、48%が「何も入手していない」状況であった。質問4とも関連するが、大学には、文部科学省より「施設設備及び安全衛生管理体制についての状況調査」や通知等を昨年末にかけて実施している。また、本会でも春季年会で、このテーマに焦点をおいた環境・安全シンポジウムを開催した。
大学の労働安全衛生法の対応準備 図−4
図-4で示すように66%が「大学は労働安全衛生法への対応を準備している」との回答を得た。現時点では、さらにすすんでいると思われる。部局等を通して対応準備へのコミュニケーションをおこなう対応が望まれる。
化学薬品のデータベース管理 図−5
図-5で示すように全学や部局でDB管理をしているのが29%であった。一方、データベース管理をしていないとの回答が70%あったが、この中には、研究室単独でデータ管理されている場合も含まれていると思われる。化学物質の取扱・使用等の把握は質問12の化学物質保管管理ともかかわっており、より効率的な集中DB管理が望まれる。
6-1 研究室のドラフトの台数(割合) 図-6-1
6-2 研究室のドラフト数の過不足 図-6-2 表−2
図-6-1はドラフトの設置数を利用者で割った割合である。0.5台/人未満が88%である。また、研究室の立場からみたドラフトの充足度は図-6-2に示すように「十分である」と回答したのは、28%しかない。専門分野の違いからの差異(表−3)は認められず、ドラフト等の不足が明らかであり、改善が必要である。
ドラフト等の機能 図−7
図-7で示すようにドラフト等の機能が「十分である」と回答したのは31%しかない。また、ドラフトを十分に設置したが、給気が十分でないというエンジニアリングの問題や保守整備されていないためドラフトの機能を果たしていないとのコメントもあった。研究室と施設部門との協調体制が必要である。
ドラフト等の排気処理 図−8
図-8で示すように「すべて処理」と「殆ど処理」をあわせても24%しか設備がない。化管法のPRTR制度や大気汚染防止法、悪臭防止法、条例など排気処理には、環境への考慮が必要である。また、労働安全衛生法にも排気処理についての告示がある。排気処理設備等の設置は急務である。その際、保守・点検管理体制も合わせて考慮することが重要である。
作業環境測定 図−9
図-9で示すように作業環境測定を実施していないとの回答が90 %であった。また、4%が実施しているとの回答があったが、放射線関係での作業環境測定も含まれると思われる。 作業環境管理をすすめるためには、大学が有害性のある化学物質を取り扱う場所の同定や測定についても作業環境測定基準(作業環境測定実施要領)を作成し、実施する必要がある。また取り扱う有害性のある化学物質の定期的な・臨時の見直しをおこなう体制をつくることも重要である。
10 特殊健康診断 図−10
図-10で示すように2/3の研究室で特殊健康診断を実施している。
放射線障害防止法や人事院規則10-5に基づく検診はしっかり実施されているとのコメントがある一方、化学物質等にかかわる特殊健康診断についての把握がこの図(質問)では実施状況がよくわからなかった。しかし、大学が産業医(学校医)の指導のもと現行の健康管理規程(基準)に有害性のある化学物質のばく露等についても労働安全衛生法を参考にして見直しをおこない、健康診断実施要領を作成し、実施する必要がある。
11 学生の対応 図−11
図-11で示すように学生にも労働者に準じた適用や救済手段を考慮する意見が多い。
学生は現行の人事院規則や労働安全衛生法では適用されないが、「学校教育法」や「学校保健法」の対象である。  従って、学生が教育・研究の場で、安全衛生面の改善が確保されるよう指針の作成等の要望や働きかけをおこなう必要がある。
12 化学物質の保管管理 図−12
図-12で示すように化学物質の保管管理では、「保管管理の見直し」が必要なのは2%しかなく、よく管理がなされている。 (日本学術会議化学研究連絡委員会の報告書『大学の研究室における安全確保と実験環境の改善について』平成5年2月では、「毒物劇物の管理」で、21.7%が管理されていないという報告がある。)
一方、各種の法律等からの薬品管理記録でDB活用など、事務作業の効率化が必要となっている。

本アンケート結果の検討と平行して、日本化学会および環境・安全推進委員会では、
(1)文部科学省の『国立大学等の実験施設における安全衛生管理に関する調査研究協力者会議』への協力
  (同協力者会議の報告書)
(2)第83回春季年会での環境・安全シンポジウムの実施。(労働安全・衛生コンサルタント、文部科学省文教
   施設部の講演、およびドラフト設備のエンジニアリング等)
(3)化学と工業誌 4月号の化学会発コラム「日本化学会員へのアピール:大学における環境・安全に関する
   管理と教育の徹底を呼びかける」への寄稿。
(4)化学系の関係8学会長による遠山文部科学大臣への要望書提出をおこなった。