日本化学会

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酵素機能を発現する「スマートデンドリマー」

 酵素などのタンパク分子にとって硬さと柔らかさはその機能を引き出す上で欠かせない要素であるが,これは人工の高分子材料においても同様である。デンドリマーは1990年代に多くの研究者によってタンパクのモデルとして注目され,機能が精力的に調べられた。酸素などの小分子に対する包摂効果など,いくつかの興味深い発見がなされたものの,多くは分子量分布を持つ直鎖状高分子やミセルなどでも実現できるものであり,タンパクのような複数のサブユニットが協同的に機能するようなデンドリマーの実現には至っていなかった。初期のデンドリマーはほとんどが柔らかい単結合の骨格から成っており,末端の巻き込みを引き起こす不安定な分子コンフォメーションによる内部空間の消失のためである。

 タンパクは主に単結合からなる柔らかい分子のように見えるが,水素結合による架橋や,αヘリックス,βシートなどの折りたたみ形成によってバネのような強固な構造も含まれ,刺激が増幅・伝達されて複雑な協同機能が実現されている。同様に,適度な硬さと分子自由度を持つデンドリマーが酵素類似の機能を発現することが初めて見いだされた1)

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 ホスト-ゲスト会合体形成において特定のゲスト分子形状をトリガーとしてホスト分子全体の形状がゲストに合わせて適合することによって大きな会合エネルギーが発現する。ゲスト分子に芳香環を2個追加するだけで会合定数が18倍以上(溶媒によっては150倍)に増加する。このデンドリマー内部空間を利用して基質選択的な触媒反応も実現された。1から作り上げた人工高分子で初めての協同的な反応加速効果である誘導適合(induced-fit)機能を有したスマート人工酵素の実現が期待される。

1)T. Imaoka, Y. Kawana, T. Kurokawa, K. Yamamoto, Nat. Commun. 2013, 4, 2581.

今岡享稔・山元公寿 東京工業大学資源化学研究所