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機能を創発する無機ナノ粒子研究 の最前線

 創発とは,局所的な相互作用を持つ個々の要素が多数集まることで,その総和とは質的に異なる(または個別の要素の振る舞いからは予測できない)高度で複雑な秩序やシステムが生じる現象を指す。生物学における脳や情報工学におけるニューラルネットワークは,まさに創発現象をもたらすシステムである。

 無機ナノ粒子はバルク結晶とは異なる特異な性質を示すことが知られ,それらの性質はナノ構造に非常に敏感である。それゆえ精度良い構造で機能を高めた無機ナノ粒子を構成要素として巧妙に組織化されたナノシステムは,新材料創製や難題解決につながると期待されている。次に最近の成果を紹介する。

 体内埋込型の小型回路やフレキシブル電子デバイス用の配線材料として伸縮性のある導電材料は重要である。従来はポリマー中へウィスカー状金属などの一次元素材を複合組織化していたが,低伸縮性や不均一分散などが問題となっていた。Kim らは,金属ナノ粒子とポリマーから成る複合フィルムを創製することで問題を解決た。このフィルムは元の長さに比べて5 倍全方位に引き延ばすことができ,さらにその状態で高い導電性を示す。これは引き延ばされたときにのみナノ粒子が自己組織的に糸状に再配列しナノ細線構造を形成するためである1)

 Rose らはゲルや生体組織のための接着剤を開発した。通常のポリマー接着剤でゲルや生体組織を接着することは容易でない。ところが適切な表面処理を施したナノ粒子は,ポリマーゲル表面に吸着してポリマー鎖の間をつなぐ働きをする能力と,ポリマー鎖がナノ粒子表面に吸着すると応力下で構造を変えエネルギーを散逸する能力を発現する。結果としてゲルや生体組織同士を強固に接着することができる2)

 このようにナノシステムに関する研究は注目著しい。一方で,構成要素となるナノ粒子研究の進歩にも目を見張るものがある。例えば,金に匹敵する安定性を誇る銀ナノ粒子の創製は,過去の常識を覆す成果の1 つである3)

1) Y. Kim et al., Nature 2013, 500, 59.

2) S. Rose et al., Nature 2014, 505, 382.

3) A. Desireddy et al., Nature 2013, 501, 399.

白幡直人 物質・材料研究機構WPI-MANA