日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >有機化学 >マイクロ空間での超分子科学

マイクロ空間での超分子科学

 自己組織化プロセスを自在に制御できる次世代の物質創製システムの開発が望まれている。本稿では,マイクロフロー空間に着目した超分子科学の新たな展開について筆者らの挑戦を紹介したい。
 超分子科学の視点からマイクロフロー空間を眺めてみると,速度論に基づいた分子間相互作用の新たな制御軸を提案できる。例えば,拡散距離の短縮により,導入された分子はほぼ同時に同じ化学環境を経験することになり,迅速かつ均質な分子間相互作用が期待できる。さらに,フロー方向が時間軸に対応することから,分子間相互作用のダイナミクスは原理的にはフロー空間の一点を指定すると一義的に規定される。よって,異種分子間の相互作用はフローに沿った空間(時間)で制御できる。また,組織化は常に流れの中で起き,分子集合体の配向は流れによって制御できる。このようなマイクロフロー空間内で従来の超分子系がどのような振る舞いを見せるのかを単純なモデルで試してみた。例えば,グアノシンモノリン酸といった単純な生体分子は,バイアル中ではほとんど会合しないが,マイクロフロー空間内では効率的に組織化し,ファイバー構造体を与えた1)。期待どおり,バルク溶液中と比較して分子間相互作用の効率は格段に向上していた。これは,下流域で異なる分子を次々と作用させると,原理的には1 本のフロー空間内で階層化できることを示唆する。また,ポルフィリン分子の会合速度を溶媒の極性と溶液の拡散距離で正確に制御すると,数十nm の均質な厚みを持つmm サイズのシート構造体が一気に創製できた2)。ここでは,溶媒の拡散速度と分子会合速度のマッチングが構造制御の鍵になっていると考えている。
 分子だけでなく高分子を導入した場合にも3),流れが作り出した特殊なナノ構造がフロー方向に増幅されnm からmmに至る明確な階層構造が現れた。こうした分子集積機能に加え,分離精製やセンシング機能などを1 つのフロー系に組み込むことで,次世代の物質創製システムとしての発展が期待される。

chem-67-08-02.jpg

1) M. Numata, T. Kozawa, Chem. Eur. J. 2013, 19, 12629.

2) M. Numata, T. Kozawa, Chem. Eur. J. 2014, 20, 6234(DOI: 10.1002/chem.201305006).

3) M. Numata, Y. Takigami, M. Takayama, Chem. Lett. 2011, 40, 102.

沼田宗典 京都府立大学大学院生命環境科学研究科