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半導体-溶液界面での電子移動を利用した局所的金属ナノ構造成長

 シリコン基板の表面に集束イオンビーム(FIB)を照射後,同基板上に塩化金酸水溶液をスポイトで滴下すると照射部に選択的に金ナノ粒子が成長する(下図)1)。FIB の代わりに超短パルスレーザー,あるいはダイヤモンドペンを用いることもできる。金ナノ粒子の大きさ,形状,集積の制御は,局在表面プラズモン共鳴等の利用に重要であり,同手法はフッ化水素酸やシランカップリング剤,電解,レジストを用いない新たな選択肢である。
 FIB 照射部で選択的に金ナノ粒子が成長する理由は,シリコンと塩化金酸水溶液のフェルミ準位の差にある。シリコン基板表面には自然酸化膜が存在する。その自然酸化膜をFIB 等により局所的に取り除くと,むき出しのシリコン表面から金イオンに電子が供給され金ナノ粒子が成長する。成長は2 段階からなる。まず,むき出しのシリコン表面に存在する結合欠陥(シリコンダングリングボンド, Si・)が水分子との結合を伴って金イオンに電子を供給する(3Si・+ Au3++ 3H2O → 3Si-OH + Au + 3H2)。それによりシリコンと金の界面が生まれる。同界面により,"ダム" が決壊し,結晶シリコンの電子が同界面を通って金イオンに供給され,金ナノ粒子が成長する。シリコンと溶液のフェルミ準位の差を利用する原理のため,例えば塩化金酸水溶液の代わりに硝酸銀水溶液を用いると銀ナノ粒子が成長するが,硝酸ニッケル水溶液を用いてもニッケルナノ粒子は成長しない。
 以上は,半導体,金属ナノ粒子,金属イオン含有溶液の組合せからなる界面での現象であり,半導体物理と溶液化学が絡み合う系である。今後,金属ナノ粒子成長の観点から同分野に新たな知見を提供できれば幸いである。

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金ナノ粒子で描いた京大ロゴマーク

1) H. Itasaka, M. Nishi et al., J. Ceram. Soc. Jpn. 2014, 122, 543.

2) H. Itasaka, M. Nishi et al., Jpn. J. Appl. Phys. 2014, 53, 06JF06.

西 正之 京都大学大学院工学研究