日本化学会

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機械的刺激で固体発光を制御する

 固体で発光する有機材料は様々な応用が期待され,その発光特性は主に化学修飾による分子そのものの電子状態変化に基づいて制御される。
 一方,擦る,あるいは手指で押しつける程度の小さな機械的刺激で発光色が変化する,ピエゾクロミック発光またはメカノクロミック発光と呼ばれる固体発光を示す有機超分子の報告が近年増大しており,分子の化学構造はそのままに集積構造を変えることで固体発光が変化することから注目を集めている1)
 その一例を示す。蛍光色素として知られるピレンに水素結合部位となる四つのアミド側鎖を導入した化合物1 は,明確なX 線回折パターンを示す白色固体であり,紫外光(365 nm) 照射下で強く青色に発光する水素結合支配のカラム状秩序構造をとる。これをスパチュラ等で押しつぶすと分子配列が乱れた準安定相となり発光は緑に変化する(X 線回折ピークは消失)。続いてこれを加熱するとカラム状秩序構造が再生し青色発光が回復する2)。化合物1 のアミド側鎖をエステル(2)やカルボン酸(3)に置き換えることで,発光色や感圧性の異なる超分子が得られる3)
 合成化学的手法と超分子の手法とを組み合わせることで,新しい固体発光材料につながると期待される。

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1) Z. -G. Chi et al., Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 3878.

2) Y. Sagara et al., J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 1520.

3) S. Yamaguchi et al., J. Mater. Chem. 2012, 22, 20065.

務台 俊樹 東京大学生産技術研究所