日本化学会

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クラスターのイオン移動度分析

 原子・分子の小集合体であるナノ粒子・クラスターやそのイオンは,基本となる構造や反応性から,触媒や磁性材料としての応用まで幅広く研究が行われている。その結果,クラスターイオンの性質は構成原子数(サイズ)が1 個変わるだけで劇的に変化することが見いだされてきた。このサイズによる変化は,一般にはイオンを質量分析法で分離して研究することができる。しかし,単一サイズのクラスターイオンには複数の構造異性体が含まれている可能性があり,サイズのみを選別しても,異性体の混合物の情報しか得られないという問題が生じる。
 気相イオンの異性体を分離する手法にイオン移動度(モビリティー)分析法がある1)。この手法では真空中に設置したドリフトセル(気体が導入され,静電場が印加されたセル)にイオンをパルス状に入射する。イオンは気体と衝突しつつ,電場で加速され一定速度となる。このとき,イオンの嵩張り具合で速度が異なるため,セルを通過するのに要する時間(到達時間)が異なり異性体が分離される。
 筆者らは,イオン移動度分析法を質量分析法と組み合わせて,酸化金属クラスターイオンのサイズ毎の構造変化の様子を研究した。(FeO)nの到達時間分布を観測した結果,n=6-8 では二次元シート構造と三次元立体構造が共存することを見いだした2)。さらに現在,分離された異性体イオンの反応性の研究も進めており3),クラスターイオンの構造と反応性との相関を明らかにしたいと考えている。

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(FeO)6-8の到達時間分布。青,赤の分布はそれぞれ二,三次元構造に対応する。

1) G. A. Eiceman, Z. Karpas, H. H. Hill, Jr., Ion Mobility Spectrometry, CRC Press, 2014.

2) K. Ohshimo et al. J. Phys. Chem. A 2014, 118, 3899.

3) 美齊津, 小安, エアロゾル研究, 2013, 28, 113.

大下慶次郎・美齊津文典 東北大学大学院理学研究科化学専攻