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細胞膜透過性ペプチドを用いる癌細胞選択的キャリアー

 細胞内への物質導入には,リポソームやウイルスなどがキャリアーとして用いられている。これらのキャリアーを用いるには,細胞毒性と低い導入効率,安定性などの問題点を克服する必要がある。一方,細胞膜を透過する性質をもつペプチド群(Cell-Penetrating Peptide; CPP)が近年数多く報告され,細胞への物質デリバリーの観点から注目されている。CPP には,アルギニンなどのカチオン性のアミノ酸に富むペプチドやカチオン性アミノ酸に加えて疎水性アミノ酸を含む両親媒性のペプチドの2 つのタイプが知られており,天然のタンパク質由来のものや人工的に開発されたCPP がある1)。CPP を遺伝子(DNA)やタンパク質と複合化することで,細胞内に望みの遺伝子を導入し発現させることやタンパク質を直接導入することができる。さらに分子の導入だけでなく,生体適合性の高いプローブとして有用である金などのナノ粒子もCPP と複合化することで細胞内に導入することができる。臼井らは,ペプチド配列中の1 ~ 2 アミノ酸が変異することにより,癌細胞の種類選択的に異なる細胞膜透過性を示す両親媒性a ヘリックスCPP を多数開発している2)。Park らは,これらのCPP を金ナノ粒子(GNS)に複合化させ,癌細胞選択的にGNS をデリバリーさせるキャリアーシステムの構築に成功している。GNS に多くのCPP が結合することで細胞選択性は変化せず,細胞膜透過に必要なペプチド量を約1/100 にすることができた。GNS そのものは細胞に毒性を示さず,このCPP-GNS 複合体に抗癌剤(DOX)を結合させることで,細胞選択的な薬剤デリバリーを達成することができた(図)3, 4)。このようなCPP-GNS システムは,癌診断や癌治療分野への研究応用が期待される。

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CPP-GNS の癌細胞選択的導入と薬剤デリバリー

1) S. Futaki, Adv. Drug Deliv. Rev. 2008, 60, 447.

2) K. Usui et al., Bioorg. Med. Chem. 2013, 21, 2560.

3) H.J. Park et al., Biomaterials 2013, 34, 4872.

4) H.J. Park et al., Biomaterials 2014, 35, 3480.

三原久和 東京工業大学大学院生命理工学研究科