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機能性ゲルの開発によるウエスタンブロッティング分析の新展開

 ウエスタンブロッティングは,細胞破砕液などの複雑なマトリクスから,電気泳動分離と特異的相互作用に基づく選択的染色によって,目的タンパク質を選択的に検出する手法である。この方法は現在,タンパク質を中心とした生命活動を解明するために不可欠な手法ではあるが,煩雑な実験操作と熟練技術,大量の試料および試薬,そして1 ~ 2 日の分析時間を要するため,生命科学研究におけるボトルネックとなってしまっている。そこで,近年,多くの研究者がミクロスケール化による簡便・微量・迅速なブロッティング分析法の開発に取り組んでいる。その中で,Herr らのグループは,ポリアクリルアミドゲル骨格に様々な機能性分子を結合させた「機能性ゲル」の開発と,その応用について報告している。その一例として,ベンゾフェノン類を組み込んだ光反応性ゲルを用いることで,電気泳動分離後のタンパク質を光照射によってゲル骨格に固定化させることに成功した。その後,特異的検出用試薬をゲル内に導入することで,1 本の微小流路を用いた簡便・微量・迅速なミクロスケールウエスタンブロッティングを実現した1)。さらに,1 枚のスライドガラスに48 本の分析用微小流路を集積化することで,ミクロスケールウエスタンブロッティングのハイスループット化を達成した2)。また,正電荷を有するポリ- L -リシン結合ゲルを組み込んだミクロスケールウエスタンブロッティングデバイスについても報告している3)。今後,様々な機能性ハイドロゲルを用いた新規ウエスタンブロッティングの開発が進展し,前述の問題点が改善されることで,生命科学研究の大きな進展に繋がることが期待される。

1) A. J. Hughes et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2012, 109, 5972.

2) A. J. Hughes et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2012, 109, 21450.

3) M. Chung et al., Anal. Chem. 2013, 85, 7753.

末吉健志・久本秀明 大阪府立大学大学院工学研究科