日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >環境・安全化学・GSC >ペプチドの自己集合によるウイルス様ナノカプセルの構築

ペプチドの自己集合によるウイルス様ナノカプセルの構築

 天然の球状ウイルスのキャプシド(殻)は,一義的なタンパク質会合数および一定のサイズを有する生体ナノカプセルである。これは,構成タンパク質が水中であまりエネルギーをかけずに自己集合することで形成されるグリーンなナノ材料構築プロセスであると言える。近年,ウイルスキャプシドなどの天然のタンパク質集合体を,ナノ材料として応用する研究が盛んに行われているが,球状ウイルスキャプシド構造を,合理的にデザインした合成ペプチドの自己集合により構築した例は知られていない1)
 筆者らは,トマトブッシースタントウィルス(TBSV, 33 nm)の内部骨格モチーフであるβ-Annulus 構造を形成する24 残基ペプチドが,水中で30 ~ 50 nmのナノカプセル(人工ウイルスキャプシド)を形成することを明らかにした2)。全長388 残基のTBSV キャプシドタンパクのうちのわずか24 残基でウイルス様カプセル構造を形成するという結果は大変興味深い。
 この人工ウイルスキャプシドのz- 電位のpH 依存性から,C 末端がカプセル表面に,N 末端がカプセル内部に配向していることがわかっている3)。また,適切な化学修飾により,DNA3),ZnOナノ粒子4),タンパク質などを内包できる。さらに,C 末端側に金ナノ粒子やヒト血清アルブミ(HSA)を修飾することにより,金ナノ粒子やHSA で「着せ替えられた」人工ウイルスキャプシドを構築することにも成功している5)

chem-68-02-03.jpg

1) K. Matsuura, RSC Adv. 2014, 4, 469.

2) K. Matsuura et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 9662.

3) K. Matsuura et al., Polymer J. 2013, 45, 529.

4) S. Fujita, K. Matsuura, Nanomaterials 2014, 4, 778.

5) K. Matsuura et al., Polymer J. DOI:10.1038/pj.2014.99.

松浦和則 鳥取大学大学院工学研究科