日本化学会

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分子および酵素燃料電池

 水素と酸素から電気を作る燃料電池は,排出物として水しか生成しないクリーンな発電装置である。燃料電池はその構造によって数種類に分類され,なかでも低温作動や小型軽量化が可能な固体高分子形燃料電池(polymer electrolyte fuel cell,PEFC)は,家庭用,携帯用,自動車用電源に適している。しかし,PEFC の電極触媒は枯渇資源で高価な白金触媒であり,その代替触媒の開発が行われてきたが,いまだに白金に代わる実用触媒の開発にはいたっていない。
 筆者らは,水素極(水素から電子を取り出す電極)の脱白金触媒として分子触媒と酵素を用いたPEFC を初めて作製し,それらの発電実験に成功した1~3)
 分子触媒として,ヒドロゲナーゼモデル錯体を開発した1, 2)。ヒドロゲナーゼは,燃料電池の水素極の反応を触媒する自然界の酵素である。この酵素を範とし,その機能と活性中心構造を分子論的にモデル化・再現した脱白金錯体触媒を設計・開発した。この分子触媒を水素極の触媒とする分子燃料電池を作製し,その電池が発電することを見いだした。酵素電極として,新種のヒドロゲナーゼS-77 を用いた3)。この新種の酵素は,探索・採集した新種の菌体から単離した。S-77 は,これまでのヒドロゲナーゼよりも高活性かつ頑丈であり,PEFCの作動条件でも十分にその機能を発揮できる。S-77 の単位重量あたりの水素酸化活性は,白金触媒に対して637 倍である。このS-77 を水素極とする酵素燃料電池を作製することで,白金燃料電池に対して1.8 倍の発電性能を達成した。

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1) 松本崇弘, 小江誠司, 化学と工業 2013, 66, 114.

2) T. Matsumoto, K. Kim, S. Ogo, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 11202.

3) T. Matsumoto, S. Eguchi, H. Nakai, T. Hibino, K.‒S. Yoon, S. Ogo, Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 8895.

松本崇弘・小江誠司 九州大学小分子エネルギーセンター