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電解液相自動合成装置によるオリゴ糖の効率合成

 電気化学は今,蓄電池・燃料電池が最も脚光を浴びているが,有機電気化学分野でも有機電解合成を中心に研究は着実に進められている。有機電解反応は電気的に制御できるため,反応制御の迅速さや精密さにおいて,他の手法の追随を許さない。そこで,筆者らは有機電解反応によって,固相合成法に基づいて達成されていたオリゴ糖の自動合成1)を,より力量のある液相自動合成法へと発展させることはできないかと考えた。
 筆者らが研究に着手した時点で,野依らによって最初に報告された電解グリコシル化反応2)はオリゴ糖合成への応用がほとんど検討されていなかった。そのため,電気化学的に発生するグリコシル化反応中間体などの基礎的な研究を重ねた3)。その結果,この数年でようやくオリゴ糖の電解液相自動合成装置を開発,オリゴグルコサミン前駆体の液相自動合成を達成した4)。また,最近になってグルコサミン加水分解酵素阻害剤であるTMG -キトトリオマイシンの前駆体合成も達成した5)。収率や選択性の面で不十分な点はあるが,自動合成装置を用いているため,合成の再現性が極めて高いのも特長である。取扱いが容易な電気をエネルギー源として,必要なものを必要なだけ作ることのできる技術としての有機電解合成こそ,これからの時代に必要な基盤的合成手法である。オリゴ糖の電解液相自動合成はその一例に過ぎない。

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1) P. H. Seeberger et al., Science 2001, 291, 1523.

2) R. Noyori, I. Kurimoto, J. Org. Chem. 1986, 51, 4320.

3) T. Nokami et al., J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 10922.

4) T. Nokami et al., Org. Lett. 2013, 15, 4520.

5) T. Nokami et al., Org. Lett. 2015, 17, 1525.

野上敏材 鳥取大学大学院工学研究科