日本化学会

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多孔性軽金属錯体の新規合成法

 多孔性金属錯体とは金属イオンを有機配位子が架橋することによって得られる高分子状の金属錯体であり,均一かつ多様な形状・サイズの細孔や柔軟な構造を利用した混合物分離,貯蔵,触媒反応などの基礎研究が精力的に展開されている1)。近年,これら多孔性金属錯体の実用化が企業の協力の下進められようとしているが,その際に問題となるのが材料コストである。金属イオンに着目すると,従来は亜鉛や銅,コバルトなどの資源量に乏しく高価な重金属イオンが主に用いられてきた。重金属イオンを地球上に大量に存在する安価な軽金属イオンに置き換えることができれば材料コスト低減が期待できるが,多孔性軽金属錯体の合成例は多孔性重金属錯体に比べ圧倒的に少なかった。
 筆者らは,軽金属イオンが硬い酸であることに着目し,これまでほとんど用いられてこなかった電荷分離型中性有機配位子を硬い酸と相性のよい硬い塩基として利用する新規合成法を開発した2)。得られた多孔性マグネシウムおよびカルシウム錯体は一次元の安定な細孔構造を有し,室温で二酸化炭素/メタン混合ガスから二酸化炭素を高選択的に分離できることを確認した。今後,本手法による多孔性軽金属錯体合成の多様化が期待される。

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1) S. Kitagawa, R. Kitaura, S. Noro, Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2334.

2) S. Noro et al., Nature Commun. 2015, 6, 5851.

野呂真一郎 北海道大学電子科学研究所