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ベンゼン環を多核チタンヒドリドクラスターで切る

 ベンゼン環を含んだ芳香族化合物は石油やバイオマスなどの天然資源に豊富に含まれている。ベンゼン環の切断は,化学工業において石油などの天然資源からガソリンや基礎化学品などを作るための極めて重要な反応である。しかし,ベンゼン環骨格は非常に安定であり,その切断は通常,固体触媒を使って500 ℃以上の高温で行う必要がある。また反応プロセスが複雑であるめ,複数の生成物を与えてしまい,反応機構についても不明なところが多い。
 筆者らは,これまで希土類ならびに遷移金属のポリヒドリド錯体について研究を行ってきた1)。その中で最近,3 つのチタン原子と7 つのヒドリド原子からなる新しいチタンポリヒドリド錯体1 の合成に成功し,それを用いて,常温・常圧での窒素分子切断と水素化に成功した2)。この高活性なチタンヒドリドクラスター1 をベンゼンと反応させたところ,ベンゼン環の切断と再配列を初めて室温で達成した3)。すなわち,ベンゼン環の炭素-炭素結合が切断され,六員環骨格から五員環骨格へと環縮小したメチルシクロペンテニル基(錯体2)が選択的に得られた。また,100 ℃に加熱すると,1 つのチタン原子が五員環内の炭素-炭素結合に挿入し,六員環チタナサイクル3 が生成した。トルエンやピリジン環なども同様に切断することができる。いずれの場合も複数のチタンヒドリドサイトの協奏作用によって達成されたものである。これらの成果によって,これまで困難とされていた,芳香族環の切断を利用した新たな物質変換反応の開発への展開が期待される。

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1) M. Nishiura, Z. Hou, Nature Chem. 2010, 2, 257.

2) T. Shima, S. Hu, G. Luo, X. Kang, Y. Luo, Z. Hou, Science 2013, 340, 1549.

3) S. Hu, T. Shima, Z. Hou, Nature 2014, 512, 413.

侯 召民 理化学研究所環境資源科学研究センター