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均一系錯体触媒を活用するメタノール水溶液からの水素製造

 近年,低炭素社会実現の観点から水素は理想的なエネルギー源として注目されており,効率的,安全かつ持続可能な水素製造法の開発が求められている。現在,水素は主に炭化水素やメタノール等の有機資源の水蒸気改質法により,不均一系金属触媒を使用した高温条件で製造されている。ごく最近になって,メタノールと水の混合物からの水素製造反応を,均一系錯体触媒を用いて100 ℃以下の温和な条件下で達成した例が報告されているが1~3),強塩基性条件あるいは余分の有機溶媒を必要とするなど,改善が望まれる点は多い。
 一方,筆者らはこれまでに,機能性配位子を有する均一系イリジウム錯体触媒によるアルコールの脱水素的酸化反応を開発してきた4, 5)。これらの触媒系は,イリジウム中心と機能性配位子の協働によってアルコールの活性化と脱水素化が効率的に進行することに特徴がある。これを発展させ,ごく最近には,ビピリドナート系機能性配位子を有し,水によく溶け空気中でも安定なアニオン性イリジウム錯体触媒を合成するとともに,メタノール水溶液からの効率的な水素製造触媒系の開発に成功した6)。本触媒系により,非常に温和な条件下(還流温度88 ℃,ごく弱い塩基性水溶液)でメタノール水溶液のみから水素を製造できる。また,メタノールと水を,反応で消費される速度に合わせて系へ添加することにより,長時間にわたって連続的に水素を製造することも可能である。

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1) T. Nielsen et al., Nature 2013, 495, 85.

2) R. E. Rodríguez-Lugo et al., Nat. Chem. 2013, 5, 342.

3) P. Hu et al., ACS Catal. 2014, 4, 2649.

4) R. Kawahara et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 3643.

5) R. Kawahara et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 12790.

6) K. Fujita et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 9057.

藤田健一 京都大学大学院人間・環境学研究科