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刺激に応じて何度でもゲストを放出できるスマート多孔性結晶

 多孔性配位高分子(MOF)は,有機配位子と金属イオンからなる精密な三次元ネットワークを持つ無限周期錯体であり,簡便な手法で合成できることおよび設計性に優れた細孔(マイクロ孔)を有することにより,分離や貯蔵,触媒など多彩な用途・分野において現在最も注目を集めている機能性材料の1 つである1)。このように非常に興味深い"マイクロ容器" であるMOF の特性を最大限に引き出すべく,MOF に内包されたゲスト分子を刺激に応じて放出させようという試みが精力的に行われている2)。しかし外部刺激によってゲスト分子放出のON-OFF を複数回にわたって制御することは非常に困難であった。
 この課題を解決すべく, 筆者らはMOF 表面近傍に存在する有機配位子の反応性官能基を選択的に化学修飾する手法(MOF 表面修飾法)を開発し,MOF表面にゲートキーパーとなる高分子(PNIPAM)を導入した3)。この高分子は温度応答性を有しており,常温では水に可溶だが,水溶液を昇温すると凝集する性質(コイル-グロビュール転移)を示す。この性質はMOF 表面に導入されても保たれており,温度変化によって高分子鎖の形態が変化し,MOF 内部に包接されたゲスト分子の放出モードと貯蔵モードを精密に制御できることを明らかにした(図)。温度のみならず,様々な種類の外部刺激を適用可能であり,ゲスト分子の種類も問わないことから,本手法によるスマート貯蔵・輸送材料の開発が期待される。

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1) S. Kitagawa et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2334.

2) 例えばN. L. Rosi et al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 8376.

3) K. Kokado et al., Chem. Commun. 2015, 51, 8614.

小門憲太 北海道大学大学院理学研究院