分子は自己集積により結晶や液晶といった,目に見える大きさの秩序構造を形成する。この形成には強弱様々な相互作用が働いており,結晶中では強い相互作用が目に見える形態を維持する一方で,相互作用の弱い部分は大きく熱運動する。この運動は結晶の誘電性や伝導性といった機能物性と深く関わっている。
一方,さほど強くない相互作用で集積した柔らかい分子集合体の場合はどうであろうか? 分子の運動は,多重安定性を内在する分子集合体の,巨視的な形態を変化させることがある。この際,階層的に働く分子間相互作用はその形態変化に秩序を与える。例えば,pH 8 の水中で形成したオレイン酸のらせん状集合体は,熱的にらせんを巻き直したりする1)。筆者らはオレイン酸のらせん状集合体に,モル分率で1~10%のアゾベンゼン誘導体を混合し,その光照射下での形態変化を観察した2)。波長365 nm の光を照射すると,らせん状集合体が勢いよく数十回回転し,その後,波長435 nm の光を照射すると逆回転した(図)。アゾベンゼン誘導体の光異性化が自己集合体の不安定化を誘起した結果,オレイン酸の集積特性に律された秩序的な形態変化が発現
したと考えられる。
これまで,有機化学者は精巧な刺激応答型の分子マシンを合成してきた。今後,実用的な大きさで機械的な運動を行う超分子モーターへの展開が期待される。巨視的かつ柔らかな分子集合体の集積機構は未解な点が多い3)。しかし,分子マシンと分子の自己集積とを連携させた研究の展開は,自己集積に本質的に備わる非線形性と協同性とが相まって,生体分子のように自律機能を有した超分子モーターの創出につながるであろう。
1) T. Sugawara et al., Chem. Lett. 2005, 34, 46.
2) Y. Kageyama et al., Chem. Commun. 2013, 49, 9386.
3) Y. Kageyama et al., Soft Matter 2015, 11, 3550.
景山義之 北海道大学大学院理学研究院