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蛍光量子ドットの毒性評価と毒性低減技術の展開

 量子ドット(Quantum Dot(QD))は,粒径(2-10 nm 程度)のわずかな変化で蛍光波長を制御でき,有機色素よりも耐光性が格段に優れ,励起光波長の自由度が高く,金属イオン分散セラミックスに比べて輝度飽和しにくい等の利点がある。そのため,バイオ用蛍光試薬や電子材料等への応用開発が進められている1)

 溶液法で合成される蛍光QD は,II-VI 族のCdSe,CdTe,ZnSe,III-V 族のInP,これらのコアにシェルを付加して発光効率と安定性を高めたCdSe/ZnS 等のコアシェル型QD が代表的である。QD 表面の界面活性剤は,表面欠陥を不活性化し蛍光を強める。しかし,QD がCd 等の有毒成分を含むことが応用範囲を狭めている。QD の毒性は,QD の組成・構造・粒径,界面活性剤の種類や表面電荷,細胞の種類等によって異なると報告されている2, 3)

 毒性低減のためには,QD を透明な微小球中に分散固定することが有効と考えられるが,市販のQD 分散ポリマー微小球は,水溶液中でCd を溶出する。このため,より緻密なガラス微小球にQDを分散する技術が開発された。筆者らは,欧米や豪州の初期の研究を参考にしつつ,ゾルゲル法等を用いた独自の簡便な手法で蛍光QD 分散ガラス微小球を作製した4)。CdSe/ZnS 系QD 分散ガラス微小球では,緩衝液中でのCd 溶出量が,QD 分散ポリマー微小球よりも1-3桁少なく,培養ヒト表皮角化細胞に対する毒性が格段に低く抑えられた5)。QDの高輝度蛍光と低毒性を両立したこの技術は,幅広い応用に繋がると期待される。

1) V. Biju, Chem. Soc. Rev. 2014, 43, 744.

2) R. Hardman, Environ. Health Perspect. 2006, 114, 165.

3) M. Bottrill, M. Green, Chem. Commun. 2011, 47, 7039.

4) S. Wang et al., Colloids Surf. A. 2012, 395, 24.

5) M. Ando, Y. Shigeri et al., Biosci. Biotech. Biochem. 2015, DOI: 10.1080/09168451.2015.
1069702.

安藤昌儀・茂里 康 産業技術総合研究所関西センター