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人工光合成の実現を目指した半導体-錯体ハイブリッド触媒の開発

 二酸化炭素(CO 2)・水(H 2O)・太陽光を利用して有機物を合成する人工光合成の研究は,化石資源の枯渇,地球温暖化に向けた方策の1 つとして期待されている。しかしながら,数年前までは,H 2Oを利用して,CO 2を選択的に太陽光で還元された報告例はなかった。例えば,半導体光触媒では,水を電子源とした触媒反応が進行するが,水素が生成しやすいため,CO 2 還元反応の選択性は低い。一方,錯体触媒は高い選択性を有するが,電子を供与する犠牲剤が必要などの問題点があった。そこで筆者らは,半導体光触媒に,錯体触媒をCO 2 還元触媒部位として組み合わせたハイブリッド光触媒を設計し,そのコンセプトを実証した 1)。この半導体-錯体ハイブリッド触媒により,筆者らはこれまで困難であった太陽光を用いて,水を電子源としたCO 2還元反応に成功した 2)。最初の太陽光変換効率は約0.04% であった。

 半導体-錯体ハイブリッド触媒のコンセプトは,汎用性が高く様々な半導体および錯体触媒に適用可能である。最近では,このコンセプトを応用し,図で示したような1 枚の板状デバイスにより,太陽光変換効率4.6% で,水を電子源かつプロトン源としてCO 2 をギ酸に還元することに成功している 3)。効率の向上には成功したが,生成物に関してはアルコールなど,より利用しやすい生成物が望まれる。そこで今後は,CO 2 還元触媒の開発が重要と考えられる。

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開発したデバイスの動作写真(気泡は発生した酸素)

1) S. Sato, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 5101.

2) S. Sato, et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 15240.

3) T. Arai, et al., Energy Environ. Sci. 2015, 8, 1998.

佐藤俊介・荒井健男・森川健志 (株)豊田中央研究所