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エレクトロクロミズムの材料応用

 エレクトロクロミズムは,電気化学的酸化還元で色が変わる現象であり,これまでに酸化タングステン,ビオロゲン,π共役系高分子などで確認されている。材料応用の歴史は古く,30 年前には液晶と次世代ディスプレイの覇権を争った。しかし,応答速度が遅いなどの理由により,競争に敗れ,その後研究も下火となった。近年,省エネルギーの観点から,エレクトロクロミック材料が有するメモリ性(電源を切っても表示が続く特性)に注目が集まり,最新の飛行機(ボーイング787)の窓にもエレクトロクロミックデバイスが採用されている。

 一方,材料開発においても,30 年前は合成や解析が難しかった新材料が出現し,新しい展開を迎えている。筆者らは,金属イオンと有機配位子が交互に配位結合で繋がった「メタロ超分子ポリマー」のエレクトロクロミズムを報告した 1)。ポリマー中の金属イオンを電気化学的に酸化還元させることで,錯体部位の電荷移動吸収が消失/出現する。着色⇔消色変化は10 万回の繰り返し耐久性があり,ポリマーをハイパーブランチ構造にすることで,応答速度は190 ミリ秒(着色),360 ミリ秒(消色)まで速くなる 2)。金属種により,青,赤,黄,緑,黒 3)の表示が可能で,金属を2 種類含むポリマーでは,マルチカラー変化する。水溶性のため,塗布による成膜が容易でデバイス化しやすい。現在,多様な表示用途での実用化を目指している。

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1) M. Higuchi, et al., Chem. Rec. 2007, 7, 203.

2) C. -W. Hu, et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 9118.

3) C. -Y. Hsu, et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2015, 7, 18266.

樋口昌芳 物質・材料研究機構