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人工光合成に向けた酸素発生金属錯体触媒の合理的設計

 エネルギー・環境問題の解決策の1 つとして「人工光合成技術」の開発が,近年大きく注目されている。人工光合成の達成において,水の酸化による酸素発生反応(2H2O→O2+4H+4e)の高活性な触媒の開発が喫緊の課題である。特に,安価な金属イオンを用いた高効率な分子触媒の設計はいまだに困難である。これまでに天然に豊富な鉄を利用した単核鉄錯体触媒が報告されているものの,反応過程での分解による早期不活性化,低活性などの問題点があった。
 正岡らは天然の光化学系II の酸素発生中心に含まれるMn4Ca クラスター錯体を参考に,①多電子移動を効率化するための「多核クラスター構造」による柔軟な電子移動能の付与,と②水の活性化サイト(配位不飽和金属イオン)の隣接による分子内O-O結合生成の促進,の設計指針の下で,鉄五核クラスター錯体を開発した。この鉄五核クラスター錯体は,6 つの異なる酸化還元状態を取り得る柔軟な電子移動能を持つ。電気化学的手法により酸素発生触媒としての機能を評価すると,この錯体触媒は非常に高い酸素発生速度(触媒回転頻度TOF:1900 s-1)ならびに高耐久性(触媒回転数TON:10万回以上)を示し,高効率な触媒能を有することが明らかとなった 1, 2)。触媒反応機構に関しても,実験化学的手法ならびに計算科学的な手法を用いて詳細に検討し,今後の金属錯体触媒開発において,極めて有用な知見を与えた。

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鉄五核クラスターの特徴

1) S. Masaoka, et al., Nature 2016, 530, 465.

2) J. Lioret-Fellol, M. Costas, New & Views in Nature Energy 2016, 1.

大場正昭・越山友美 九州大学大学院理学研究院