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有機結晶における超弾性

 特殊な弾性には様々な応用が期待でき,高分子材料のゴム弾性はその最たるものである。一方,1932 年にAu-Cd 合金で見いだされた超弾性(塑性変形した固体が擬弾性的に形状回復する特性)は 1),今日形状記憶合金として様々な用途に用いられている。しかし,これまで超弾性(形状記憶効果)を示す有機材料は知られていなかった。

 最近筆者は,有機結晶が超弾性を発現することを発見した 2)。この特性は,単純な有機結晶であるテレフタルアミドの水素結合性結晶 3),3,5-ジフルオロ安息香酸の二分子会合体のファンデルワールス結晶 4),テトラブチルホスホニウム テトラフェニルボレートの二元系イオン性有機結晶 5),安息香酸銅(II)ピラジン付加物の多孔性一次元鎖状高分子錯体結晶 6)など様々なタイプの有機結晶で見いだされている。

 これまで金属合金と無機固体でのみ観察された物理特性である超弾性が,有機化合物で確認されており,この知見の学術的意義は深く,新しい有機機能性超弾性材料への応用開発も期待できる。

 今後,この発見は有機結晶化学の新学術分野を開拓する可能性が高く,次世代の有機固体化学の発展に大いに貢献するものと期待される。

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1) A. Ölander, J. Am. Chem. Soc. 1932, 54, 3819.

2) Nature Research Highlights,「Bent Crystal gets back into shape」, Nature 2014, 509, 536.

3) S. Takamizawa, Y. Miyamoto, Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 6970.

4) S. Takamizawa, Y. Takasaki, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 4815.

5) S. Takamizawa, Y. Takasaki, Chem. Sci. 2016, 7, 1527.

6) Y. Takasaki, S. Takamizawa, Nature Commun. 2015, 6, 8934.

髙見澤聡 横浜市立大学