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蛍光分子を用いる有機結晶核形成段階の可視化とメカニズムの解明

 

 溶液からの有機結晶の生成は,医薬品製造や単結晶生成などにおいて重要なプロセスである。有機結晶の多くはファンデルワールス力などの比較的弱い相互作用によって形成されるため,結晶化条件の制御は有機結晶の機能・物性に直接関与すると考えられる。

 最近,有機結晶の分野において,その集合体特性に由来する会合誘起発光現象(AIE)1)や蛍光性メカノクロミック(ML)分子2)に注目が集まっている。前者は結晶化に伴う蛍光増強であり,後者は分子配列変化に起因し蛍光色が変化するものである。筆者らは,AIE やML 分子の溶媒蒸発結晶化過程における蛍光変化を利用して,結晶核生成段階の可視化とメカニズムの解明の研究を進めている 3, 4)。ML 分子の1 つであるジベンゾイルメタンフッ化ホウ素錯体溶液の溶媒蒸発過程において,蛍光色が紫色から橙色を経由し青色へと変化した4)。これは溶液中で単量体として存在している分子から,アモルファス様の集合体を形成した後に結晶を形成したことを示唆している。この現象は,「過飽和溶液中での分子ゆらぎによって形成された液滴状クラスターを経由した後,相転移による再配列の結果,結晶を生成する」という二段階核形成モデルを支持している5, 6)。結晶生成過程の蛍光可視化は,所望の構造を有する結晶を選択的に生成できる結晶化条件の提供,結晶多形発現機構解明のための一手段となることが期待される。

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1) B. Z. Tang, et al., Chem. Soc. Rev. 2011, 40, 5361.

2) Mechanochromic Fluorescent Materials, ed by J. Xu, Z. Chi, RSC publishing, 2014.

3) F. Ito, et al., CrystEngComm. 2014, 16, 9779.

4) F. Ito, et al., Sci. Rep. 6, 22918; doi: 10. 1038/srep22918.

5) 原野幸治,化学と教育 201563,384.

6) A. S. Myerson, et al., Science 2013, 3, 690.

伊藤冬樹 信州大学学術研究院教育学系