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脱炭酸的ハロゲン化反応―古くて新しい反応―

 カルボン酸もしくはその塩の脱炭酸を伴うハロゲン化反応は様々なハロゲン化合物を合成できる有用な反応であり,天然有機化合物や医薬候補分子の合成に利用されている。この反応はHunsdiecker反応として知られており,1861 年に作曲家としても有名なAlexandre Borodine によって発見された。当初はカルボン酸の銀塩に臭素分子を反応させることで臭化アルキルを合成しており1, 2),その後長年にわたって様々な改良法が見いだされてきた。従来法のほとんどは化学量論量の遷移金属を必要としていたが,最近脂肪族カルボン酸の触媒的Hunsdiecker 型反応がLi らにより達成された3)。彼らは1価の銀錯体を触媒とすることで様々な脂
肪族カルボン酸の脱炭酸的塩素化反応に成功した(図参照)。また同様のフッ素化反応も最近盛んに研究されており,単純な脂肪族カルボン酸の脱炭酸を伴ったフッ素化反応を実現する触媒系が幾つか見いだされている4)。さらに,これまでHunsdiecker 型反応の触媒的不斉化に成功した例は報告されていなかったが,最
近筆者らはキラルアミン触媒を利用したβ ︲ケトカルボン酸の脱炭酸的不斉塩素化反応に成功した5)
 このように150 年以上前に発見されたHunsdiecker 反応が現代の分子触媒技術によって大きく進化しつつある。有機分子への選択的なハロゲン原子の導入は医農薬品を中心とした機能性分子の開発において非常に重要な技術であることから,同反応の更なる発展が期待される。

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1) A. Borodine, Justus Liebigs Ann. Chem.1861, 119, 121.
2) H. Hunsdiecker, et al., Ber. Dtsch. Chem.Ges. B 1942, 75, 291.
3) C. Li, et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134,4258.
4) D. W. C. MacMillan, et al., J. Am. Chem.Soc. 2015, 137, 5654 ; and references therein.
5) K. Shibatomi, et al., 日本化学会第96 春季年会,2016,3H2-33.

柴富一孝 豊橋技術科学大学