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気相昇温脱離法を用いた金属 クラスターと小分子の反応機構の解明

 原子が数個~数十個集合した気相クラスターは孤立系であり,金属クラスターの表面で反応が進行する場合は,反応に関与する化学種を原子・分子1個のレベルで精密に制御しながら,反応を調べることができる1)。近年,温度を制御しつつ高温条件で反応を追跡できるようになった。白金,ロジウムなど,高温で触媒として機能する物質2)の金属クラスターの振る舞いも,新たなアプローチから解明されつつある。
 室温で金属クラスターに小分子を吸着させた後,一定温度(300~1000 K)に加熱した管の中にヘリウムガスと一緒にクラスターを通すと,ヘリウムとの衝突によってクラスターは熱平衡状態に達する。クラスターに吸着した小分子は,温度に依存した速度定数で反応するので,生成物の量は温度によって変化する。図は,ロジウムクラスターRh6Omの加熱によって生成するイオン種を示す。Rh6O10が室温から600 Kにかけて減少する代わりにRh6O8が増加し,さらに800~900 Kにかけて減少する代わりに今度はRh6O6が増加する。これら強度変化の温度依存性から,O2の脱離過程を調べることができる。固体表面からの分子の脱離過程を調べる「昇温脱離法」と同様の情報が積分型で得られるため,気相クラスターに適用する本手法を気相昇温脱離法と名付けた3~5)。表面反応や脱離に必要な活性化エネルギーを求めることができるので,量子化学計算の結果と併せて,分子の吸着,反応,脱離過程を詳細に調べることができる方法として期待される。

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1) S. Lang et al., ACS Catal. 2015, 5, 2275.
2) I. Nakai et al., J. Phys. Chem. C 2009, 113, 13257.
3) T. Nagata et al., J. Phys. Chem. A 2015, 119, 1813.
4) K. Koyama et al., J. Phys. Chem. A 2015, 119, 9573.
5) F. Mafuné et al., J. Phys. Chem. A 2016, 120, 861.

真船文隆 東京大学大学院総合文化研究科