圧電材料は機械的エネルギーと電気的エネルギーの相互変換に用いられ,センサーやアクチュエーターとして実用化されている。実用的な圧電材料の多くは,組成式がABO3で表されるペロブスカイト型強誘電体であり,代表例としてBaTiO3やPb(Zr, Ti)O3などがある。これらの化合物では,Ti4+の二次ヤーン-テラー効果やPb2+の孤立電子対の存在のように,特定の元素に特有の性質によって結晶構造の反転対称性が失われ,強誘電性・圧電性が現れる。このような性質をもつ元素の種類は限られるため,ペロブスカイト化合物の中で反転対称性が欠如した結晶構造をもつ物質は数%程度に留まる。
一方で最近,ペロブスカイト関連層状構造において,ABO3ペロブスカイト強誘電体の場合と異なり,「酸素八面体回転」の構造歪みにより反転対称性が破れることが理論的に示されている1),。筆者らは,ルドルスデン-ポッパー型層状ぺロブスカイト酸化物NaRTiO4(Rは希土類)においてこれを実証した2)。既報ではこれらの酸化物に対して反転対称性をもつ結晶構造が報告されていたが3),実験と理論計算を用いて結晶構造を再調査した結果,室温では既報と異なる酸素八面体回転パターンが生じることがわかった。この回転パターンの"微妙な違い"により結晶構造から反転対称性が失われ,圧電性が現れる。酸素八面体回転はペロブスカイト関連化合物において最もありふれた構造歪みであるため,この機構に基づく物質探索は,無鉛圧電材料を含む新奇圧電材料の開発につながる可能性がある。
1) N. A. Benedek, C. J. Fennie, Phys. Rev. Lett. 2011, 106, 107204.
2) H. Akamatsu, K. Fujita, et al., Phys. Rev. Lett. 2014, 112, 187602.
3) K. Toda et al., J. Alloys Compds. 1996, 234, 19.
藤田晃司 京都大学大学院工学研究科