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スチレンの不斉重合による光学活性ポリスチレンの直接合成

Direct Synthesis of Optically Active Polystyrene by Asymmetric Polymerization of Styrene

光学活性高分子は自然界に多数存在し,材料としての可能性から,その人工合成が強く望まれている。スチレンはプロキラルな分子であるが,その立体規則性高分子は,アイソタクチックポリスチレンに見られるように,高分子鎖内に対称面をもつため一般に光学不活性になる1)。そのため,これまでスチレンの単独重合による光学活性ポリスチレンの合成例はなかった。Okudaらは光学活性チタン錯体を用い,連鎖移動剤(1-ヘキセン)存在下でのスチレンの反応により,光学活性オリゴスチレンの合成に成功している2)
 筆者らは,光学活性なシクロデキストリン骨格からなるHUGPHOS配位子を有するPd錯体がCO雰囲気下でスチレンの重合を触媒し,生成ポリスチレンの立体規則性は低い一方で,光学活性であることを見いだした3)。重合にはCO圧が大きな影響を及ぼす。すなわち,1 atmのCO雰囲気下では光学活性ポリスチレンが得られるが,さらに加圧下で反応を行うと,光学不活性なポリスチレンが生成する。また,COが存在しない場合には連鎖移動が頻繁に起こり高重合体は得られない。COはPd中心に弱く配位しており,重合中に可逆的にCOの配位・解離が起こることが光学活性高分子生成の鍵になっていると考えられる。今後,このような動的な挙動を示す光学活性錯体を利用することで,様々なプロキラルモノマーから光学活性高分子を合成することが可能になると期待される。
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1) Y. Okamoto et al., Chem. Rev. 1994, 94, 349.
2) J. Okuda et al., Chem. Asian J. 2008, 3, 1312.
3) D. Takeuchi et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 8367.

竹内大介 東京工業大学科学技術創成研究院