グラフェン研究にノーベル物理学賞が授与され,はや6年が経過した。この間,グラフェンの物性解明やプロセス開発(CVD,液相剥離)に加え,MoS2,WSe2,BN,P(黒リン)等,新規な原子膜材料が次々と見いだされている。これらを基本素材として活用することで物理・化学分野における様々な材料応用が可能となる1)。物理分野では薄膜トランジスタ,高温超伝導材料等のエレクトロニクス材料を中心に基礎・応用研究が進められている。例えば,最近発見されたFeSe原子膜における80K(バルク7K)という驚くべき高Tcは高温超伝導体開発における新たな材料開発指針を与えたと言える2)。極限薄さの原子膜は高比表面積であり化学的に活性な"エッジサイト"も有する。これらの特徴に着目して化学分野では光触媒,電気化学触媒,バイオセンサー等の開発が進められている3)。
原子膜研究における次ターゲットは,異種原子膜のヘテロ接合による多機能化・協奏機能化である。グラファイト,MoS2,BN等はVan der Waals相互作用で原子層同士が結合した層状構造を有する。これらを単層として剥離あるいは成長させ,さらに異種原子層を積層した複層原子膜構造はVan der Waalsヘテロ構造と呼ばれ,精力的な研究が開始されている4)。単分子膜,酸化物ナノシート等,原子膜素材はバラエティに富んでおり,今後,これらを複合化した多様な二次元ハイブリッド材料の創出が期待される。
1) G. R. Bhimanapati et al., ACS Nano 2015, 9, 11509.
2) J. Ge et al., Nature Mater. 2015, 14, 285.
3) D. Deng et al., Nature Nanotechnol. 2016, 11, 218.
4) A. K Geim et al., Nature 2013, 499, 419.
谷口貴章 物質・材料研究機構,国際ナノアーキテクトニクス研究拠点