日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >有機結晶 >金原子間相互作用の増強が鍵となる光結晶相転移

金原子間相互作用の増強が鍵となる光結晶相転移

Phototriggered phase transition based on strengthening gold-gold interaction

 光照射をトリガーとし,構造や機能が切り替わる超分子集合体や有機結晶が近年盛んに研究されている1)。多くの場合,構成有機分子の光異性化によって,集合系の構造と機能が切り替わるよう設計されており,アゾベンゼンやジアリールエテンなどが典型的に用いられている。
 最近,分子間に生じる金属間結合を利用した光結晶相転移が報告された2)。図に示す金錯体の結晶では,青色発光する結晶Bに対し紫外光を照射すると,黄色発光の結晶Yに変化した。光照射の前後で単結晶X線構造解析に成功し,光相転移の進行および金原子間距離の減少が明らかとなった。
 このBからYへの光相転移は,光誘起金原子間結合の増強によるものである。金錯体は,溶液中や固体中で集合すると,金原子間相互作用を形成する。このときHOMOの電子は金原子間相互作用の反結合性軌道の性質を示すことが知られている。そのため,光励起状態においてはHOMOの電子が昇位し,金原子間相互作用がより強くなることが理論計算3)や時間分解分光測定4)によって提唱されてきた。しかし,これまで定常状態の実験観測はほとんど行われてこなかった。単結晶構造を基にしたDFT計算より,BからYへの光相転移は,結晶格子中の分子間に生じた金原子間相互作用の増強により誘起されたことがわかった。本質的にはその他の金属錯体にも適用可能な現象であり,「光照射による金属間相互作用の増強」が光相転移の新たな分子設計指針となることが示された。

chem-70-02-04.jpg
1) H. Tian et al., Adv. Mater. 2013, 25, 378.
2) T. Seki, H. Ito et al., Chem. Sci. 2015, 6, 1491.
3) H.-X. Zhang et al., Inorg. Chem. 2004, 43, 593.
4) T. Tahara et al., J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 538.
関 朋宏 北海道大学大学院工学研究院応用化学部門