日本化学会

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触媒的アンモニア合成の新展開

A new horizon of catalytic production of ammonia

1913 年に世界初のアンモニア商業生産が開始されて以来,人類は窒素固定化法を手にしたが,常温・常圧でのアンモニア合成は百年の夢である。山本明夫らは不活性な窒素分子が金属に配位することを発見し,そのインパクトの大きさからパールハーバー・コンプレックスと呼ばれた1)。しかし,錯体による触媒的なアンモニア合成は長年困難であった。ハーバー・ボッシュ法が水素を用いていることは生化学プロセスと大きく異なる点であり,Schrock らは生化学プロセスと同様に窒素とプロトンと還元剤によりMo錯体を用いてMo 当たり7.6 当量のアンモニアが生成する世界初の触媒反応を報告した2)。同様の触媒的アンモニア合成は,現在でも西林,Peters およびAshleyを含めたわずか4 グループが成功したに過ぎず3),常温・常圧で実現したのはMoを用いたSchrock と西林のグループだけである。最近西林らはトリホスフィンを配位子とするニトリドMo 錯体により,Mo当たり63 当量のアンモニア合成に成功し4),PCP 型ピンサーを配位子とする二核Mo 錯体により230 当量のアンモニアの生成を発表している4c)。また,パールハーバー・コンプレックスもシリルアミンを経由するアンモニア合成の触媒となることを見いだしている。近い将来飛躍的な進展が期待される。

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1) A. Yamamoto et al., Chem. Commun. 1967, 79.
2) R. R. Schrock et al., Science 2003, 301, 76.
3) a)Y. Nishibayashi et al., Nature Chem. 2011, 3, 120; b)J. C. Peters et al., Nature 2013, 501, 84; c)A. E. Ashley, J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 13521.
4) a)Y. Nishibayashi, et al., J. Am. Chem.Soc. 2015, 137, 5666; b)Y. Nishibayashi, K. Yoshizawa, et al., Acc. Chem. Res. 2016, 49, 987; c)Y. Nishibayashi et al., PACIFICHEM2015, INOR1484.

平野雅文 東京農工大学大学院工学研究院