日本化学会

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水素結合に基づく超分子ナノシート

Hydrogen-Bond-Directed Supramolecular Nanosheets

水素結合は分子間相互作用の中でも,強さや配向性という特徴を有し,タンパク質や核酸などの精緻な立体構造と機能を実現している。一方で,極性の高い水中では有効に作用せず,人工分子デバイスの実現には適切な設計が必要である。荒木らは,非極性部位を組み入れたデオキシグアノシン誘導体で,水素結合性の超分子ナノシート形成を報告している1)
 筆者らは親水部と疎水部を有する両親媒性スルファミド誘導体を用いて,超分子ナノシートとその機能を報告した2)。オキシエチレン鎖を末端に有する親水部と,テトラデシル基からなる疎水部を有するスルファミド誘導体のTHF 溶液を,攪拌中の50℃の水に注入すると,マイクロメートルサイズの巨大ベシクルが形成した。TEM像では,複数のシートからなるパッチワーク模様のベシクル膜が確認された。スルファミド超分子シートの二枚膜が単位となり,互いに貼り合わさっていることが分かっている。さらに内水相に蛍光物質を入れた実験から,ベシクル膜の堅牢性と,水に対する特異なバリア性が明らかとなった。一方で,飽和食塩水に接触させるとベシクルは溶解して,ミセルサイズの分子集合体に変形した。可逆的な分子間相互作用の特徴が活かされた刺激応答性材料の可能性を示唆した。
 フレキシブルデバイスに向けた有機薄膜の観点からも,本研究領域のさらなる展開を期待したい。

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1)K. Araki et al., Top. Curr. Chem. 2005, 256,133.
2)S. Kabashima et al., Langmuir 2011, 27,8950.

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