日本化学会

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安定化カチオンプール法の開発

Development of the Stabilized Cation Pool Method

 炭素カチオンは有機合成における重要な反応性中間体であるが,反応性が高いために不安定であることが知られてい
る。筆者が所属する研究室では,低温電解酸化により炭素カチオンを不可逆的に発生・蓄積させ,電解酸化終了後に求核
剤を加えて反応させる「カチオンプール法」を開発し,通常有機合成に用いられる溶媒中での炭素カチオンの観測や反応
性の解明を行ってきた1, 2)。しかし,カチオンプール法で発生・蓄積できる炭素カチオンの種類は限られている。
 最近筆者らは,安定化剤の共存下,電解酸化により炭素カチオンを発生させ,安定化されたカチオンとして蓄積し,電
解酸化終了後に求核剤と反応させる「安定化カチオンプール法」を開発した3)。トルエン誘導体を電解酸化して,ベンジルカチオンを発生させ,反応系中のスルフィルイミンでトラップすることにより,安定化カチオンとして蓄積した。安定化カチオンはNMR および質量分析により同定した。電子豊富芳香族化合物を加えると,安定化カチオンはベンジルカチオン等価体として反応し, ベンジル位C-H/芳香族C-Hクロスカップリング生成物を与えた。この安定化カチオンはヨ
ウ化物イオンと反応させるとN-S 結合が切断され,ベンジルアミンへと変換できる4)
 今後,本手法を用いることにより,様々な炭素カチオンを安定化カチオンとして反応に利用できると期待される。

chem70-11-04.jpg1) J. Yoshida, S. Suga, Chem. Eur. J. 2002, 8, 2651.
2) J. Yoshida, A. Shimizu et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 2015, 88, 763.
3) R. Hayashi, A. Shimizu, J. Yoshida, J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 8400.
4) R. Hayashi, A. Shimizu J. Yoshida et al., Chem. Eur. J. 2017, 23, 61.

清水章弘 京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻