日本化学会

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微粒子吸着による流体のカプセル化

Fluid Encapsulation by Particle Adsorption at Fluid Interfaces

 エマルションや泡などの分散系の調製は,ある流体を気泡や液滴の形態で別の流体中にカプセル化することと捉えられる。このカプセル化を行うために,界面活性な分子や高分子が一般に用いられている。一方,ナノ~マイクロメートルサイズの微粒子も油/水界面や空気/水表面などの流体界面に吸着し,同様な働きを示す。
 微粒子を用いる場合の特徴の1つは,液体を空気中にカプセル化できる点である。微粒子が疎液的な場合,液滴表面に微粒子の吸着膜が形成され,カプセル化が実現される。このような液滴はリキッドマーブル(ドライリキッド)と呼ばれている 1, 2)。油などの表面張力の低い液体の場合,表面粗さの効果に由来する撥液性を示す微粒子が必要とされる3)。リキッドマーブルは,マイクロ流路における微小量の液体の輸送媒体や微小空間の化学反応場としての利用が期待されている。
 最近,微粒子の膜により気体が気体中にカプセルされた系(ガスマーブル)の調製とその特異な物性が報告された 4)。液体の毛管架橋による強固な微粒子の膜の存在のため,ガスマーブルは,リキッドマーブルよりも収縮に対して10 倍以上安定であるだけでなく,形状の変化を伴わずに加圧させることが可能である。
 微粒子による流体のカプセル化の実用的な利用を促進するために,微粒子吸着膜の力学的性質を制御するための化学・物理的な研究の進展が望まれている。

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1) P. Aussillous, D. Quéré, Nature 2001, 411, 924.
2) B. P. Binks, R. Murakami, Nat. Mater. 2006, 5, 865.
3) R. Murakami, A. Bismarck, Adv. Funct. Mater. 2010, 20, 732.
4) Y. Timounay et al., Phys. Rev. Lett. 2017, 118, 228001.

村上 良 甲南大学理工学部機能分子化学科