日本化学会

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N-結合型糖鎖の化学合成

Chemical Syntheses of N-Glycans

 糖鎖は,核酸,ペプチドに続く第3の生命鎖と呼ばれ,多くの生命現象に関与する。N-結合型糖鎖( N-グリカン)はアスパラギンに結合するタンパク質の翻訳後修飾糖鎖で,多様な構造をもち,タンパク質の品質管理や体内動態制御,免疫などに関わる。一方,その作用機構の分子基盤解明は十分には進んでおらず,これを実現するためには,純粋なN-グリカンの量的供給が重要である。そのために,化学合成や酵素合成,天然からの単離など様々な方法が検討されてきた。
 筆者らは,コアフコース含有N-グリカン1)とバイセクティンググルコサミン含有N-グリカン2)の化学合成を検討した。効率的な骨格構築を実現するために,還元末端の糖鎖に対し,分枝部分で非還元末端の糖鎖を二度グリコシル化する収束的な合成ルートを採用した。本合成においては,①マイクロフロー反応を用いた効率的なフラグメント合成,②NHAc のNAc2保護による水素結合ネットワークの形成阻害を鍵とした反応性向上,③エーテル溶媒を用いたオキソカルベニウムイオン中間体の安定化によるグリコシル化の収率向上,④保護基パターンの精査によるグリコシル化の立体選択性向上,などがカギとなった。
 近年では,筆者らのグループをはじめ,複数のグループでN-グリカンの合成が達成されている。糖鎖は様々な疾病とも関連する。今後,糖鎖の量的供給が可能になったことで,糖鎖の機能が解明され,糖鎖医薬が実現すると期待している。


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1) M. Nagasaki et al., J. Org. Chem. 2016, 81, 10600.
2) Y. Manabe et al., Chem. Asian J. 2018, 13, 1544.

真鍋良幸 大阪大学大学院理学研究科