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分子・結晶の高対称性とその破れを利用した導電性スイッチング


Conductivity Switching Based on the High-symmetry and Its Breaking of a Molecular Crystal

 分子結晶において,分子の内部自由度に基づき,外部からの刺激に対応して個々の分子の構造が個別に変形し,結晶全体の導電性や磁性などの電子物性が変化する系が構築できれば興味深い。2つのTTF骨格が互いに直交するように4本のアルキル鎖で固定された交差シクロファン型ドナーTBC3のイオンラジカル塩TBC3・Br(TCE)2 においては,図1 のように室温付近ではともに平面的な2 つのTTF 骨格の一方が170 K以下で大きく屈曲することで結晶格子が正方晶系(高温相)から単斜晶系(低温相)へと変化し,それに伴い抵抗値が約10分の1に変化する1, 2)。この低温相において,高温相の等価なa,b軸に相当する2つの直交した結晶軸の一方に一定の電流を印加すると,その方向の抵抗値が減少し,直交する方向の抵抗値が上昇する現象が見いだされた。図2 に示す通り,この現象は電流を印加する軸を入れ替えると交互に何度も繰り返すことが可能であった。電流による微視的な発熱により,2 つの軸方向が等価な高温相を経由して,全体として発熱の低い低抵抗な軸方向が誘導されたものと考えられる。有機結晶における機能発現手法の1 つとして興味深い。

chem71-11-02.jpg 図1 TBC3・Br(TCE) 2 の相転移による分子構造変化


chem71-11-03.jpg 図2 TBC3・Br(TCE) 2 の抵抗の交互スイッチング
(操作電流±10 μA,測定電圧:10 mV)


1) J. Tanabe, T. Sugawara et al., Mol. Cryst. Liq. Cryst. 1997, 296, 61.
2) M. M. Matsushita, T. Sugawara, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 12450.

松下未知雄 名古屋大学大学院理学研究科