日本化学会

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半球状金属酸化物のホストゲスト化学

Host-Guest Property of a Bowl-Type Metal Oxide Cluster

 化学反応や吸着の反応性・選択性を制御するためには,適切な"場"が必要である。目的に合わせた分子設計は言うまでもなく重要であるが,これまで何らかの理由で使われていなかった構造に改めて着目することで広がる化学がある。
 金属有機構造体(MOF)の先駆者として著名なOmar M. YaghiはMOFの研究以前,バナジウム酸化物クラスターアニオンの研究を行い,12個のバナジウムからなる美しい半球状分子[V12O324-V12)を合成した1)。4.4Åの口を持ち,半球内部には特異的な電荷分布があるため,その活用が期待されたが,合成時に挿入されるニトリル基と半球ホストとの高い親和性の壁を打ち破ることができなかった。
 筆者らは,合成ルートを開拓することで,ゲスト交換可能なV12の調製に成功した。V12はそれ自体が多価の負電荷を持つにも関わらず,サイズ選択的なアニオンレセプターとして働いた2, 3)。これは,半球内部表面には,12個の多価のバナジウム由来の特異的な静電場が形成されているためである。さらに,量論的な酸の添加,脱離によって,バナジウムと酸素の数を保ったまま,口の開いた構造と閉じた構造の間で,可逆な変換が可能であり,構造変換前後で外部基質のアクセスを制御できることが明らかとなった4)
 特異的な構造と電荷分布が内部に広がるV12の可能性に魅せられ,戦略的に臨むことで,使いあぐねていた空間の活用に至った。今後,更なる反応場としての利用などが期待される。

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1) D. W. Day et al., J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 5959.
2) S. Kuwajima et al., ACS Omega 2017, 2, 268.
3) S. Kuwajima et al., Chem.-Asian J. 2017, 12, 1909.
4) Y. Inoue et al., Dalton Trans. 2016, 45, 7563.

菊川雄司 金沢大学理工研究域物質化学系