日本化学会

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海洋天然物Siladenoserinol A の全合成

Total Synthesis of Marine Natural Product Siladenoserinol A

 最近の創薬研究において,ケミカルスペースの拡大を目的に天然物およびその誘導体の利用が期待されている1)。筆者 らは天然物を利用した構造活性相関研究の一例として,創薬標的として注目されるp53-Hdm2 相互作用に対し強力な阻害 活性を示すsiladenoserinol A の全合成に成功している2)。Siladenoserinol A はこれまでに報告されている阻害剤に比べ多官 能基化され,かつ大きな表面積を有することから異なる作用機序が期待される。 筆者らは作用機序解明を指向した構造活性相関研究を目的に,ビシクロケタール骨格に対して3 つの官能基を順次導入す る多様性指向型全合成を試みた。独自に開発した金触媒による位置選択的環化反応により高効率にビシクロケタール骨格 を構築後,Julia オレフィン化によりセリノール側鎖を導入した。次に,別途調製したリン酸エステルを用いるHorner-Wadworth-Emmons 反応により,構築困難とされる不飽和エステル構造を有するグリセロホスホコリン側鎖の構築に成功した。最後に,窒素選択的な硫酸化によりsiladenoserinol A の初の全合成を達成した。また,本手法を用いた誘導体合成により,ビシクロケタール骨格上のアシル基が活性発現に重要であることを初めて明らかにした。今後,本手法に基づく作用機序解明を進めることで,天然物化学を基盤とした新しいp53-Hdm2 阻害剤の開発が期待される。

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1) J. Kirchmair et al., J. Chem. Inf. Model. 2018, 58, 1518.
2) M. Yoshida et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 5147.

吉田将人 筑波大学数理物質系化学域