日本化学会

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合金クラスターの原子精度での精密分離

Separation of Alloy Clusters at Atomic Level

極微細な金属クラスターは,通常の金属とは異なる物性や機能を示すため,機能性ナノ材料の構成単位として注目を集めている。異種元素の混合による複合効果を利用すると,さらなる物性・機能の発現も期待できるため,近年では,合金クラスターについても盛んに研究が行われている1)。そうした合金クラスターにおける構造-物性相関を理解しながら,それらを応用していく上では,化学組成および幾何構造の制御技術が不可欠である。しかしながら,現状では,原子精度では精密に合成できない合金クラスターが数多く残されている。
こうした中,筆者らは最近,合金クラスターを原子精度の精密さで分離する方法の確立に成功した2, 3)。異種元素間では電気陰性度が異なるため,その差に起因して,化学組成の異なる合金クラスター間では表面の極性にわずかな差が生じる。筆者らはこの点に着目し,各化学組成の合金クラスターを逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離する方法を確立した。この方法を用いると,例えば,金-銀,金-パラジウム,金-白金からなる合金クラスターを原子レベルで精密に分離することが可能である。また,同じ化学組成の合金クラスターを構造異性体ごとに分離することも可能である。こうした方法により,今後,合金クラスターにおける構造-物性相関に関して,従来よりも一段深い理解が得られることが期待される。

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1) K. Kusada et al., J. Am. Chem. Soc. 2010,132, 15896.
2) Y. Niihori et al., J. Phys. Chem. Lett. 2018, 9, 4930.
3) S. Hossain et al., Acc. Chem. Res. 2018, 51, 3114.

根岸雄一 東京理科大学理学部応用化学科