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触媒反応の収率予測や活性因子の特定に機械学習を利用

Machine Learning Applied to Yield or Activation Factor Prediction for Catalytic Reactions

触媒化学の研究に計算化学が利用されるようになって久しいが,その多くが触媒反応機構の解明のために行われる電子状態計算である。最近の人工知能ブームにより,新しい触媒の探索・発見にも計算機を利用できないかという機運が高まっており,その先駆けとして,収率の予測や活性因子の特定などに機械学習を利用する研究が散見されるようになった。
例えばAhnemanらは,C-Nクロスカップリング反応に対してDFT計算で得た記述子による実験収率の予測モデル構築を行っているが,ハイスループット実験により4000を超える反応を取り扱っている1)。このほかにも,DFT計算による記述子を用いて均一系触媒の収率や位置選択率などを予測する研究が,国内外で報告されている2)。さらに,不均一系触媒に対しても機械学習の利用が広がりつつあり,例えば北大の瀧川らは,金属触媒の活性でよく議論されるdバンド中心をバルクのDFT計算によらず,機械学習で得るモデルを構築している3)
最近筆者らは,銅ナノクラスターの形状に依存したNO解離触媒活性に対して,機械学習を用いた反応活性因子の特定を行った4)。網羅的に取得したNO解離遷移状態構造に対するDFTベースの記述子にスパースモデリングと呼ばれる手法を適用し,87の候補因子の中から特にLUMOのエネルギー準位が負に相関することを見いだした(図)。これを計算結果の解釈の指針として,活性の変化の理由を明快に説明することに成功している。

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1) D. T. Ahneman et al., Science 2018, 360, 186.
2) 例えばA. Yada et al., Chem. Lett. 2018, 47, 284; M. D. Wodrich et al., Helvetica Chim. Acta 2018, 101, e1800107.
3) I. Takigawa et al., in Nanoinformatics, Springer, 2018, pp. 45-64.
4) T. Iwasa et al., J. Phys. Chem. A 2019, 123, 210. DOI: 10.1021/acs.jpca.8b08868.

小林正人 北海道大学理学研究院