日本化学会

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相変化温度以上でも形状維持可能な非流動性蓄熱材

Non-fluid Latent Thermal Storage Material that Can Maintain Its Shape Even above Phase Change Temperature

 熱は「エネルギーとして」や「廃棄すべきものとして」など,周囲の環境によって扱われ方が大きく異なる。前者では省エネルギーによる環境問題解決への貢献に向け排熱利用に関わる技術が求められている。後者では,IoT 機器が増えるとともに半導体パッケージの小型化・高集積化に伴う発熱密度の増加(電子機器自身の温度上昇)が課題となることから放熱・冷却技術が求められている。これらの課題を解決することを目的に,保温や吸熱が可能な「潜熱蓄熱材」が着目されている。
 潜熱蓄熱材は,一定温度(融点や沸点)での固体から液体,液体から気体などの状態変化で蓄熱性能を発現する材料である。従来の潜熱蓄熱材では,状態変化に伴う材料流失を抑制するためにパウチセル等密閉構造内での使用が必要であり,応用を困難にしていた。密閉構造を廃する手法の1 つとして,潜熱蓄熱成分のマイクロカプセル化が進められているが 1),成形体としての使用にはバインダ等とのコンポジット化が必要である。蓄熱量向上にはバインダへの高充填が必要となるが,蓄熱量と機械強度や柔軟性などとの両立が困難となってしまう。
 日立化成株式会社では,これまでに培ってきたポリマー分子設計技術を応用し,ポリマー側鎖に結晶性構造を結合させることで固液相変化温度以上でも流動せず柔軟性を有する非流動性潜熱蓄熱材を開発した(図1)2)。すなわち,ポリマーそのものの分子構造に潜熱蓄熱成分を導入することで(図2),高い蓄熱量と有効な成形体としての活用を両立させることに成功した。ポリマー側鎖に結晶性構造とともに架橋反応可能な官能基を導入する ことで,硬化性を付与することも可能であり,後硬化可能なペーストとして複雑形状などへの蓄熱材施工も可能とした。
 潜熱蓄熱材料は,輸送分野の空調用途など,省エネルギーの温度制御方法として期待され,関連する国家プロジェクトにおいて高性能蓄熱材の低コスト製造技術確立などが進展している3)。これらの技術開発等によって,省エネルギーなど様々な分野における環境対策等,技術のさらなる進展に期待したい。

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1) 特許第5651272 号.
2) 日立化成テクニカルレポート61 号(2019年1 月).
3) NEDO ニュースリリース(2017 年3 月15日).https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100735.html

横田弘 日立化成株式会社イノベーション推進本部先端技術研究開発センタ