日本化学会

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熱化学電池の性能の向上

Recent Improvement of Thermocell

 熱化学電池は,酸化還元平衡電位の温度依存性を利用した熱電変換素子の一種である。最近,高比表面積のカーボン電極により,[Fe(CN)63-/4-電池の熱電変換効率が,カルノー効率比で3.95% に達したり1),プルシアンブルー類縁体電極の充放電サイクルと組み合わせることでカルノー効率比34% を実現したこと2)など,性能の向上が顕著である。
 通常の熱化学電池のゼーベック係数(Se)は,酸化還元反応エントロピーに比例する。そこで,酸化還元に伴う物質数の変化,コバルト錯体のレドックスに伴うスピン転移3),溶媒和エントロピー4)などが利用されている。
 筆者らは酸化還元活性種と相互作用するホスト材料の添加により,熱化学電池のSe の向上を報告した 5)。IイオンとI3イオンからなる熱化学電池にα-シクロデキストリン(α-CD)を添加すると,α-CDが低温でI3を包接することでIイオンの酸化反応が促進される。高温側ではI3は放出され,還元反応が起こる。この包接反応と熱化学電池との組み合わせにより,熱化学電池のゼーベック係数を向上させることに成功した。
 またZhouらは[Fe(CN)63-/4-の水溶液にグアニジン塩酸塩や尿素を加え,相互作用を制御することで,Se を-4.2mV/Kまで向上させた6)。今後も,様々な分野の多様な技術と酸化還元対との組み 合わせにより,熱化学電池の一層の性能の向上が見込まれる。

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1) H. Im et al., Nat. Commun. 2016, 7, 10600.
2) S. W. Lee et al., Nat. Commun. 2014, 5, 3942.
3) J. Pringle et al., Electrochim. Acta 2018, 269, 714.
4) J. T. Hupp et al., Inorg. Chem. 1984, 23, 3639.
5) H. Zhou, T. Yamada, N. Kimizuka, J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 10502.
6) J. Zhou et al., Nat. Commun. 2018, 9, 5146.

山田鉄兵 九州大学大学院工学研究院