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pKa ルールに基づいた酸-塩基複合体と光機能材料の設計

Acid-Base Complexes Based on pKa Rule for Photofunction Design

酸-塩基複合体は,プロトン移動を伴うイオン性の"塩",プロトン移動を伴わない中性の"共結晶",部分的なプロトン移動を伴う"塩︲共結晶連続体"の3 状態をとる1)。これらの状態は,塩基と酸のpKaの差(ΔpKa=pKa(base)-pKa(acid))に従い,pKa ルールと呼ばれる2)。経験上, ΔpKa>4 は塩,ΔpKa <-1 は共結晶となる。しかし-1<ΔpKa<4 の領域は,塩,共結晶,塩-共結晶連続体のいずれかとなり,結晶のパッキング様式や外部因子も関わるため,その予測は困難である。
 見方を変えると-1<ΔpKa<4 の領域からなる酸︲塩基複合体は,準安定状態の結晶材料である。近年,Jones らはハロテニリンと安息香酸誘導体の酸-塩基複合体が,加熱に伴い赤色から無色となるアーモクロミズムを報告した3)。温度上昇に伴い共結晶からより安定な塩へのプサトン移動が生じるためである。筆者らは,ピリジル基を修飾した発光性色素とキリチル酸との酸-塩基複合体のベイポユロミズムを報告した4)。ジクロロメタメ蒸気の吸着に伴う結晶のパッキング様式の変化が,塩-共結晶連続体から塩へプロトン移動を促進する。結果,蒸気吸着前後の結晶の色および発光色に変化が生じる。このときのΔpKa は2.8 である。酸-塩基複合体は,網羅的な結晶材料の調製を可能にする魅力的なプラットフォ ームである。今後もpKa ルールに着目した複合材料およびその機能探索が期待される。

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1) S. L. Childs et al., Mol. Pharmaceutics 2007, 4, 323.
2) A. J. Cruz-Cabeza et al., CrystEngComm 2012, 14, 6362.
3) C. L. Jones et al., CrystEngComm 2019, 21, 1626.
4) Y. Yano et al., J. Mater. Chem. C 2019, 7, 8847.

小野利和 九州大学大学院工学研究院