日本化学会

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アスピリンから誘導される循環型ビニルポリマー

Sustainable Vinyl Polymer Derived from Asprin

 人類最初の合成医薬品である,アスピリンことアセチルサリチル酸(1)から,循環型ビニルポリマーを誘導できることが,ごく最近示された。
 筆者らはもともと,環状ヘミアセタールエステル骨格を含むビニルポリマーについて研究していた1)。この一環として,重合により環状ヘミアセタールエステル骨格を生成するモノマー2 に興味を持った。2は水和により1を与える性質から, Dehydroaspirin のニックネームでも知られる2)。幸い,2 は1 の塩素化と塩基処理によって簡単に合成でき,重合研究の目処が立った。2 のラジカル重合では,期待どおりにヘミアセタールエステル骨格を有するポリマー3が得られた3)。一般にヘミアセタールエステルは,酸加水分解によりケトンとカルボン酸,アルコールに分解する。そこで,ポリマー3 の酸加水分解を試みたところ,意外にもサリチル酸(4)と酢酸(5)に分解することがわかった。同様の分解は,2 と酢酸ビニルの共重合体でも確認された。このとき,分子量は反応初期に大幅に低下した。この挙動は主鎖切断に起因する分解機構を示す。
 4 と5 は1 の原料であるため,このポリマーは循環型のビニルポリマーと捉えることができる。現状,分解物から1 を再生する利点はないが,この発見が循環型高分子の設計のヒントになると期待し,さらなる研究を進めている。

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1) Y. Kohsaka et al., J. Polym. Sci. Part A : Polym. Chem. 2016, 54, 955.
2) P. Babin, B. Bennetau, Tetrahedron Lett. 2001, 42, 5231.
3) A. Kazama, Y. Kohsaka, Polym. Chem. 2019, 10, 2751.

髙坂泰弘 信州大学先鋭材料研究所/繊維学部化学・材料学科