日本化学会

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振動SFG分光で観るキラリティ

Chiralities Observed by Vibrational SFG Spectroscopy

 振動SFG分光法は,二次の非線形光学過程を利用した振動分光法である。対称中心をもつ系では禁制となるため,中心対称性が破れる界面の振動スペクトルを選択的に観測する手法として盛んに利用されてきた。一方,分子あるいは分子集合体のキラリティも系の中心対称性を破るため,振動SFG分光でキラリティを検出できる。SFG過程を使ったキラリティ測定の原理は古くから知られていた1)が,2000年に初めてUCバークレーのY. R. Shenのグループがキラル液体のキラル振動SFGスペクトルの測定に成功した2)。キラル振動SFG分光法は電気双極子遷移許容な光学的過程を利用しており,磁気双極子相互作用や電気四重極子相互作用を利用する従来のキラル振動分光法(赤外円二色性VCD,ラマン光学活性ROA)よりも格段に高感度である。さらに,溶液のような等方的なバルク層だけでなく,面内等方的な界面のキラリティを検出することもできるという利点がある。
 筆者らは,キラル振動SFG分光の感度と情報量を向上させるために,ヘテロダイン検出とマルチチャンネル化を実現した分光装置を開発し3),液体・溶液のバルク層,単分子膜,気水界面のタンパク質膜,高分子の界面などのキラリティを計測してきた。測定例として,ビナフチル骨格を持つ水上のラングミュア単分子膜のキラルSFGスペクトル4)を図に示す。VCDやROAでは事実上測定不可能な単分子膜のキラリティが,露光時間~2分の振動SFGスペクトル上では,振動バンドの反転した符号として識別できており,本手法の高い感度を示している。
 今後,時間・空間分解などの測定への展開や,絶対配置の推定のための理論的手法の発展が期待される。

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1) J. A. Giordmaine, Phys. Rev. 1965, 138, 1599.
2) M. A. Belkin et al., Phys. Rev. Lett. 2000, 85, 4474.
3) M. Okuno, T. Ishibashi, J. Phys. Chem. Lett. 2014, 5, 2874.
4) M. Okuno et al., J. Chem. Phys. 2017, 121, 11241.

石橋孝章 筑波大学数理物質系化学域