日本化学会

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ヘリカルラダーポリマーの合成と応用

Synthesis of Helical Ladder Polymers and Their Application

 ラセンは,自然界が選んだ究極の構造であり,生体高分子が示す高度な生命機能の本質である。生体模倣/超越を胸に秘め,化学者が努力を重ねた結果,多くの分子や超分子,高分子系においてラセン構造の人工的構築やそれに由来する機能創出が可能になりつつある1)。例えば,芳香環などの平面性の高い板状ユニットを,平行方向に2点以上で連結するとともに,一定の角度で折り曲がるよう"ひねり"を加え続けることができれば,ラセンとハシゴの構造要素を併せ持つヘリカルラダーポリマーを合成することができる。しかし,「言うは易く行うは難し」であり,本合成に成功した例は,Katzらの配位高分子化を利用した報告に限られる2)
 筆者らは最近,キラルなトリプチセン骨格とSwagerらが開発した芳香族求電子置換反応に基づく分子内の連続的環形成3)を組み合わせることで,有機高分子ベースの完全一方向巻きヘリカルラダーポリマーの創成に成功した4)。一方向に捻れた剛直ハシゴ構造を主鎖に連続的に生成させたことが鍵となる。さらに,本ポリマーが,ヘリカルラダー構造に由来して,光学分割能や円偏光発光性を示すことも実証した。ラダー化による構造規制を戦略的に活用することで,より精緻かつ複雑な高次構造を構築することも可能である。また,それら未知なるラダーポリマーの構造的特徴を最大限に活かした新現象・新機能の創出が期待される。

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1) E. Yashima et al., Chem. Rev. 2016, 116, 13752.
2) T. J. Katz et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1996, 35, 2109.
3) T. M. Swager et al., J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 7895.
4) T. Ikai et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 4696.

井改知幸 名古屋大学大学院工学研究科